カリフォルニア最後の秘境「ロスト・コースト・トレイル」3泊4日バックパッキング

アメリカでのトレイル記録

2021年6月中旬に、ロスト・コースト・トレイル(Lost Coast Trail:以下LCT)」に挑んだ。
ここは、北米の構造プレートが衝突するダイナミックな地殻変動によって形成された、カリフォルニア沿岸部で最も急峻なエリアでもある。20世紀半ば、海岸沿いを走る州道1号線の建設が試みられたが、あまりの断崖絶壁と地盤の脆さに建設を断念。道路が内陸へ迂回したことで、幸運にも「徒歩でしかアクセスできない原始の海岸線(失われた海岸)」として残されたとされている。この美しい海岸線を歩く唯一無二の体験は、国立レクリエーション・トレイルにも指定されるほどのプレミア感がある。

我々の行程では、LCTの(北部セクション)だけを歩いたが、北の「Mattole Beach」から南の「Black Sands Beach」へ抜けるワンウェイのルートで行く場合のネックとなったのが「車の回収」だった。友人とそれぞれ車で向かい、落ち合った後に以下の「2台デポ作戦」を決行した。到着予定地である南側の「Black Sands Beach」のトレイルヘッドに、車を1台停めて、もう1台の車に乗り合い、スタート地点の北側「Mattole Beach」へ向かい、トレッキング終了後、Black Sands Beachに停めておいた車でMattole Beachまで戻り、残りの1台を回収した。

事前予約制のパーミット(許可証)習得は友人がやってくれたが、人数制限もあるので、人気で取りずらいようであった。この地域は背後の森林地帯にブラックベアが生息しているため、食料用のベアカニスターの携行が法的に義務付けられている。海岸に出没するブラックベアはハイカーにも頻繁に目撃されているようであった。山岳地のような登り降りはないが、ルートの累積標高差はわずか50フィート(約15m)ほどである。山岳トレイルのような急な登り降り(Elevation change)はほぼ無い。しかしながら、実際の地形は、目の粗い黒砂、砂利、そして波に浸食されたボウリングボール大の巨石群で構成されている。足を一歩踏み出すたびにズブズブと砂に沈み込み、海藻でツルツル滑る丸石の上でバランスを取りながら歩くため、肉体的な疲労度は一般的な登山Backpackingとは違う疲労感があった。

潮位(タイド)との駆け引きLCTの最大の特徴であり難関でもあるのが、満潮時に完全に海水に沈んでしまう「通行不能セクション(Impassable Zones)」の存在である。高潮位時に進入すると波にさらわれる危険があるため、事前に潮汐表(タイドテーブル)を解析し、「干潮時刻の前後2時間」という限られたウィンドウを狙って通過しなければならない。しかし、自然は計算通りにはいかないことがある。通過時にはスリル満点(というか命がけ?)のような要素があった。

トレッキング・ログ:3泊4日の全記録
Day 1: Mattole Beach 〜 Cooksie Creek (7.1 miles)
雨模様のMattole Beachを出発。歩き始めて3マイル地点で、海辺にポツンと佇む「プンタ・ゴルダ灯台」に到着しました。強風に耐えたコンクリートの骨組みだけが残る廃灯台のすぐ先には、巨大なキタゾウアザラシが波打ち際でサツマイモのように群れて寝そべっていた。 そして、初日のハイライトは、キャンプ地であるCooksie Creekの手前(シーライオン・ガルチ付近から始まるゾーン2)で訪れた。ここは潮位が2.5フィート以下でないと安全に通過できないセクションである。引き潮の時間を計算して挑んだが、海は予想以上に荒れていた。歩けるくらいに潮は下がっていたが、一か所だけ10メートルもない区間に、10秒に一回くらい結構大きな波が背後の岸壁にたたきつけられていた。
岩場に脚を取られて滑るので大型ザックを担いで走ることができず、結局容赦なく打ち寄せる太平洋の波を全身にモロに浴びながらの強行突破になった。極寒の波でずぶ濡れになり、危険と隣り合わせでもあったが、今振り返ると最高にスリリングで面白い瞬間でもあった。なんとかCooksie Creekの渓谷内に逃げ込み、初日の幕を下ろした。

Day 2: Cooksie Creek 〜 Kinsey Creek (5.9 miles) 2日目は、LCT全体の中で最も岩が荒々しい「ゾーン2」の核心部を進んだ。藻類がこびりついた濡れた丸石や巨石が連続し、歩行スピードはガタ落ちになった。途中、「ハットロック」と呼ばれる岬の南側には極めて滑りやすい巨石帯が広がっているため、古い私有キャビンのある内陸の迂回ルート(トレイル)を使って高巻きしてやり過ごした。この日は、沿岸樹林に囲まれ強風を遮ることができる快適なKinsey Creekでテントを張った。

Day 3: Kinsey Creek 〜 Buck Creek (8.6 miles)この旅で最も長い距離を歩く3日目であった。
前半はSpanish FlatやBig Flatといった、海成段丘の平坦な草地が続くため、比較的快適に距離を稼いだ。後半はMiller Flatから再び通行不能な「ゾーン3」に突入したが、この日のキャンプ地であるBuck Creekはゾーン3の「内部」にあるため、満潮時には波がテントの近くまで迫り、前にも後ろにも進めなくなる「ロックイン」のリスクがあった。濡れた砂浜を避け、渓谷の奥まった斜面にテントを設営した。

Day 4: Buck Creek 〜 Black Sands Beach (5.9 miles)
最終日。朝の引き潮のタイミングに合わせて素早くパッキングし、残りの通行不能セクションを一気に駆け抜けた。無事に潮位の制限エリアを抜けたものの、最後の最後に最大の難関が待っていた。
最も歩行が困難とされる「ルースブラックサンド(粒子が細かく極めて緩い黒砂)」の海岸線であった。ただでさえ疲労困憊の足が、踏み出すたびに数センチ沈み込みます。ふくらはぎとアキレス腱が悲鳴を上げる中、執念で歩き続け、ついに終点のBlack Sands Beachの駐車場へ這い上がった。

総括:27.5マイルの数字の真実事前に調べた地図上の距離は約25マイル前後のはずだったが、AlltrailのGPSの総歩行距離は「27.5マイル」となっていた。これは、歩きやすい砂を探して千鳥足になったり、巨石を迂回したり、波を避けて内陸側を歩いたりしたのもあったからだった。
行程の半分以上が雨で、大型ザックを背負って砂浜を延々と歩くのは、決して快適とは言えない過酷な旅ではあったが面白かった。文明から完全に遮断され、太平洋の怒涛の音を聞きながら原始の自然と一体化するこのトレイルには、ここでしか味わえない強烈な魅力があった。
もしLCTに挑戦しようとしている方がいたら、ぜひタイドテーブルの入念な確認と、強靭な足腰を作ってから挑むことを強くおすすめする。

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