鳳凰三山への巡礼

トレイル

鳳凰三山 ― 天と地を結ぶ山で感じた、再生の旅

Walking the Mountains of Rebirth: A Spiritual Journey across Mt. Houou

はじめに ― 南アルプスへの第一歩

南アルプスの麓に移り住んだので、この山域への初めての山行先として、私は9月、鳳凰三山を選んだ。

古来より日本各地には山岳信仰があり、ここ鳳凰山もそのひとつ。

写真で見たオベリスクと地蔵群の姿が強く印象に残っており、いつかこの目で確かめたいと思っていたが、この登山をきっかけに、日本の山岳信仰の痕跡をたどる旅を始めようと思った。


ベースキャンプ ― 南御室小屋への道

樹林帯の静けさと、汗の中での浄化

夜叉神峠登山口から入山し、約8キロ先の南御室小屋をベースキャンプとする2泊3日のプランにした。

1日目は小屋まで登り、2日目を丸一日使って鳳凰三山を縦走するという、時間にゆとりのある計画だ。

最初は樹林帯の中をひたすら登る。湿度が高く、すぐにシャツが汗でびっしょりになった。

息が上がるたびに、自分の中の「執着」や「焦り」が浮かび上がり、それを手放していく感覚がある。

頂に立って絶景を見渡す瞬間、すべてが洗われる――山旅はこの繰り返しだ。

夜叉神峠にて

テント泊の夜 ― 森の中の静寂

日本とアメリカ、二つの山文化

15時過ぎに南御室小屋に到着。

平日とあって静かで、テントは数張ほどしかなかった。

南御室小屋のテン場は平日とあってか自分以外に4張しか見えなかった

私は木々の陰になった奥の場所にテントを張った。

アメリカのシエラ山脈では、夏でも他のテントが見えないようなソロキャンプが普通だった。

それに比べると、日本のテン場の密度には最初は驚いた。

だからこそ、平日を狙って静かな時間を選ぶようになった。

この夜、虫の声と森の匂いに包まれて眠りについた。


天空の稜線 ― 鳳凰三山縦走

オベリスクと賽の河原の神秘

2日目、朝6時に小屋を出発。

ほどなくして樹林帯を抜けると、左手に南アルプスの主峰・北岳や間ノ岳が見えた。

薬師岳、観音岳、地蔵岳へと続く稜線は、まさに「天空の道」だった。

朝から曇り気味だったが、薬師岳手前では幸運にも富士山を見ることができた。

遠くから見る富士はいつ見ても美しい。

15分くらい拝むことができたがすぐにまた隠れてしまった

午前中、地蔵岳へ向かう道中はどんどん曇って来た。

まるで冥途へ向かうかのような錯覚を少し覚えた。

4時間程で地蔵岳付近へ到着した。

地蔵岳のオベリスクを見た瞬間、その存在感に息をのんだ。

それは天と地を結ぶ柱のようで、神聖な気配を放っていた。

やがて「賽の河原」と呼ばれる砂礫地にたどり着くと、並び立つ地蔵群が霧の中に浮かんでいた。

オベリスク岩へ登ってみたら上のほうにも地蔵があった

かつてここは「子授け地」とも呼ばれ、信仰の対象だったという。

途中からあたりが霧に包まれてきて、自分ひとりだけが異界に迷い込んだような錯覚に陥った。


古の祈りと、人々の信仰

賽の河原は、親に先立って亡くなった子どもが石を積むとされる場所。

鬼に壊されても積み続け、その子どもたちを地蔵菩薩が救うという。

かつて麓の人々は子宝を願い、重い石像を背負ってこの標高2,800mの地まで登った。

その祈りの切実さが、今もこの地に残っている。

霧が晴れると、そこには清々しい風が吹いていた。

まるで異界から戻り、心が浄化されたような感覚があった。

オベリスク岩の上から

観音の風、薬師の光

観音岳に立つと、優しい風が背中を押した。

「観音菩薩に見守られているようだ」と思った。

観音岳の近くにも隠れたところに地蔵があった
天空の稜線
観音岳頂上にて

薬師岳では、癒しと再生のエネルギーを感じた。

ここも格別に綺麗で、不思議なエネルギーを感じ続けたので、しばらくそこを離れられなかった。

晴れた日に、森林限界を超えた場所は空気が澄んでいて神々しい。


薬師岳にて

山は心を映す鏡

自然との対話が教えてくれること

山を歩いていると、考え事が浮かんでは消えていく。

しかし、ふと風や光に意識を向けた瞬間、自然からのメッセージを感じることがある。

雷鳥の姿、猿の声、木々のざわめき――それらはすべて、シンクロニシティのように心に響く。

30年ぶりに帰国して訪れ始めた日本の山々。

鳳凰三山への総距離28kmの縦走は、霊山だからなのだろうか、肉体的な修行をしているような錯覚を覚え、内面を清める「行」をしたような感覚にもなった。


終わりに ― 鳳凰という再生の象徴

鳳凰。

それは死と再生を繰り返す象徴の鳥。

この山の名の通り、私自身もまたひとつの再生を感じた。

人生の転換点に立つ今、この山は私に“新しい始まり”を告げてくれたのかもしれない。

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