白峰三山縦走記・後編:雲と雨の稜線       

トレイル

Shirane Sanzan Traverse – Part II: Beneath the Clouds and Into the Rain

Day 3:雲の下の一日(北岳山荘 → 間ノ岳 → 農鳥小屋)

Day 3 – A Day Beneath the Clouds

この日こそ稜線歩きの核心――そう期待していたが、晴天には恵まれずに午後から曇天だった。

北岳山荘を出ると登山者はぐっと減り、静かなルートとなった。

途中で、岩に打ち込まれた「昭和44年 滑落事故慰霊」のプレートを見つけた。

慰霊碑プレートがあった場所からの展望

過去にもこの地で命を落とした登山者がいたのだと思うと、自然と足が止まった。

間ノ岳を目指して登っていく

間ノ岳に着いたらガスが出てきて、展望はあまり得られなかった。

農鳥小屋が見えてきた

北岳山荘から農鳥小屋までは約4.5kmなので、6時出発でかなりゆっくり行ったがそれでも13時前には到着した。

この日は9月30日――農鳥小屋の今季最終営業日だった。

この山小屋も高度2800mの稜線上に位置する

霧はどんどん濃くなり、期待していた稜線の絶景は見られなかった。

宿泊客はわずか3人。濃霧の中で小屋は異界のように静まり返っていた。

農鳥小屋の西側から夕方に垣間見えた景色
期待していた稜線上テント場からの景色は見れなかった

Day 4:雨の下山(農鳥小屋 → 奈良田)

Day 4 – Descent in the Rain

4時半に起床したが結局出発は6時。雨が降り始めていた。

風も強く、いきなりの急登だった。

最初はレインスカートを着たが、風でばたつくためパンツに変更。

やはりレインパンツはすぐに外側からはけるフルジップのほうが良いと思う。

大型ザックでの急登、強雨、強風――この組み合わせは時折拷問でも受けているのかと錯覚を覚えた。

稜線に出たら完全なガスになり、西農鳥岳、農鳥岳ともに展望なしになった。

このエリアも絶景と聞くので、「このルートは、いつか必ずリベンジしよう」と心に誓った。

農鳥岳頂上にて

奈良田への標高差は約2,200m。大門沢小屋までの下りは急勾配で、ロープ場や岩場も多く、雨で滑りやすかった。

紅葉は見頃を迎えており、美しい箇所も多かったが、濃霧で視界は限られた。

大門沢では豊かな水流が現れ、見事な渓谷美を見せた。

その後は沢沿いを進み、渡渉箇所も数か所。途中ルートを見失いかけた。

この日は最長行程の14km超。朝から16時まで雨に打たれながら歩き続け、
奈良田に着いた時には10時間が経っていた。

最後にあった名前がわからないつり橋は揺れるので怖かった。

奈良田近くにある怖いつり橋

登山者駐車場には車の姿もなく、温泉も閉まっていた。

静まり返った集落の空気が、妙に印象的だった。

山はすべてを映す鏡

The Mountain Reflects Everything

白峰三山は、距離だけでは語れない厳しさを持つルートだった。

下山でバスを利用するなら3泊が無難だが、次に来るときは奈良田に車を置き、広河原から再挑戦したいと思う。

四日間の天候――晴れ、曇り、雨――そのすべてが山の素顔だった。

快晴の景色よりも、曇天の静けさや雨と風の音のほうが、深く記憶に残る。

日本の山はいつ天候が変わってもおかしくない。

長くアメリカ西海岸の乾いたシエラ山脈を歩いてきた自分にとって、
この“洗礼”はむしろ恵みだった。

またいつか、晴れた稜線でこの山々に再会したい。

北米時代によく訪れたシャスタ山も、神聖な山として知られる。

地元ネイティブから、「森林限界の上は神の領域。人が軽々しく入るべきではない」と聞いたが、
日本の山岳信仰にも、それと通じる精神がある。

西洋のアルピニズム登山が明治以降に日本へ輸入され、現代の登山が“挑戦”や“征服”、さらには大衆化して娯楽としての形で広がったのに対し、古来の日本の山行は、山そのものを敬う“修行”であった。

かつて欧州貴族が国の威信を賭けて高峰に挑んだような登山には、確かにエゴの匂いがある。

映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』を思い出す。

山は試す。

登る者の意識を。

そして時に、拒む。

ジョン・ミューア・トレイルを歩いた時も、

4000m級の峠を越えるたびに、

何か崇高な意識に見つめられているような感覚を覚えた。

シエラ山脈は全域がパワースポットのように感じた。

日本の山々は歩き始めたばかりだが、想像してたとおり、神々の息吹を感じる。

登山とは、大自然の意識と人との対話であり、試練であり、

それを受け入れるための祈りなのかもしれない。

改めて思う――
山へ入るときは、リスペクトを持って入るべきだ。

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